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雇用の変化
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ
特に日本において求められているものは社会的な革新である。その典型の一つが、いかにして雇用と所得を確保しつつ、同時に、転換期に不可欠の労働力市場のの流動性を確保するのかという問題である。
本の冒頭にある「日本の読者へ」からの引用です。この文章を見ただけで読みたくなってくるのではないでしょうか。第1刷発行が2002年5月23日と発売は20年近く前になるのですが、特に第Ⅰ部は2020年の今でも内容が古くさくなっていないおすすめの本です。
2020年の半ばを過ぎた頃からジョブ型雇用という言葉をよく聞くようになりました。コロナ禍の影響が大きいとは思いますが、それ以前からメンバーシップ型雇用のデメリットが大きくなっている中でジョブ型雇用への移行圧力が高まりつつある中、コロナ禍でその流れが加速したのではないかと思います。
メンバーシップ型雇用のメリットとデメリット
大きくなっているというメンバーシップ型雇用のデメリットって何よ? ということでメリットとデメリットの話です。それぞれ複数ありますがここではポイントとなるものを一つ紹介します。
メリット | デメリット |
---|---|
人員計画が立てやすい | 従業員を解雇しにくい |
既存の人員はそのままに事業規模の拡大に応じて人を増やしていくというやり方でうまく行く間は、終身雇用で人員をキープしつつ不足分を補うというやり方が負担が少なくすみます。この場合は、業務内容を固定せず変化に応じて既存の人員が業務内容に変化に追随するというやり方になります。しょっちゅう人が変わるよりも、長年一緒に仕事をしている人と仕事をする方がやりやすい場面も多く企業側、労働者側双方にメリットがあります。
このやり方がうまく行く前提として、業務内容が変化しない、あるいは、業務内容の変化に人員が追随できることが必要です。年を追うにつれてこの前提が成り立たなくなっているところに問題があります。
業務内容が変化しないことは期待できない
テクノロジーの進化速度の上昇とグローバル化により私たちを取り巻く状況の変化の速度も上がっています。特にITの進化による変化を実感する機会は多いのではないでしょうか。
テクノロジーの力が大きくなるのに合わせて業務がテクノロジーの影響を受けることが増加し、労働者は常に新しい知識の習得が求められるようになっています。知識と言ってもはネットで検索すれば良いような単純なものが求められているわけではなく、ノウハウとか知恵とか呼ばれるものが必要になるので暗記で勝負してきた人はつらいでしょうね。
業務の変化としては業種・業態によっていろいろあると思いますが、共通的な例としてはインバウンド営業(インバウンドセールス)があります。以前からインバウンド営業というやり方は存在していましたし、アウトバンド営業からインバウンド営業へのスタイルの変化は言われていましたが、コロナ禍によって注目度が上がりました。受注活動という業務は同じですが、業務内容が大きく変化して求められる行動や知識が全然違います。ひょっとしたら職種転換ぐらいの違いがあるかも知れません。
適材適所から適所適材に変わってきているという話もあり、自分に合った仕事に割り当てられるのではなく、求められる仕事に自分を合わせることが必要とされています。
だって社内に仕事がないのですよ
ということで業務内容の変化に人員が追随することが必要になってくるわけですが、必ずしも全員が変化についてこれるというわけではありません。それでもついてこれない人が少数であれば、簡単な作業を任せるなどでなんとか抱えておくこともできますが、抱えきれないほどになってきたいるというのが現状のようです。
エン・ジャパン株式会社が2020年に調査した300社に聞く「社内失業」実態調査によると予備軍を含めると社内失業者がいると回答した企業が29%。従業員数1000名以上の企業では47%となっています。要因の上位を見ると「該当社員の能力不足が」75%、「該当社員の移動・受け入れ先がない」が49%となっており、社内失業の原因として適切な居場所が社内にないというのが見て取れます。
正社員は解雇が難しいので非正規の雇用が増えているともいわれています。労働力調査 長期時系列データの「表10 【年平均結果―全国】 (1) 年齢階級(10歳階級)別就業者数及び年齢階級(10歳階級),雇用形態別雇用者数」の数字を見てみるとこうなっています。
こう見ると確かに増えていますね。もう少し切り口を変えてみてみます。男性の年代別です。
こう見ると65歳以上になっても働き続ける人が増えて、その人たちが非正規で働いているからという影響が大きいようにも見えます。とはいえ25-34歳を見ると2002年の9.4%が2019年には14.6%に増えているので、新しい労働力は非正規でという割合が増加している可能性があります。
なので仕事は社外で見つけてください
社内に仕事がなければ社外で仕事を探してもらうしかないということになります。とはいえ簡単に解雇するというわけにもなかなか行かないので別の手段になります。
最近増えているのは副業解禁。2018年1月に厚生労働省が副業・兼業の促進に関するガイドラインを作成して国からも副業・兼業への後押しがされ、同じく2018年1月のモデル就業規則の改訂で副業禁止に関わる記載が削除されています。これにより雇用側としては副業を推進しやすい環境になってきています。
これを受けてどのぐらいの人が副業や兼業をしているかですが、リクルートキャリアが2020年度に調査した兼業・副業に関する動向調査(2020)概要版によると兼業・副業を実施している人は9.8%で、今後実施してみたいと回答した人は41.8%とのことです。実施中の人はそれほど多くはないですが、今後実施してみたいという人を加えると50%を超えるということなので副業や兼業をしている人の方が多いという時代になりつつあるのかもしれません。
副業でどれぐらい稼げているかですが、マイナビ転職が2020年11月に調査した副業に関する意識調査によると副業で得ている月収の平均は59,782円。結構良い金額のようにも思えますが、希望の月収の平均である132,546円の半分以下しか稼げていないということなので副業がやりやすくなったからといってそれで十分な所得を得るのは難しいようです。それでも給与や賞与のカットに備えるという点では有力な選択肢ではないでしょうか。
副業解禁以外の動きとしては週休3日制について以前よりも耳にする機会が増えました。代わりに1日の勤務時間を長くして給与を維持するパターンと、休日が増える分給与が減るパターンとあります。後者のパターンは副業と相性が良いですね。週に5日働いてさらに副業で働くというのは続く気がしませんが、1日増えた休みを使って副業にチャレンジしてみるというのはありだと思います。
週休3日は仕事の進め方を変えないといけない部分があるので採用が広がるのは限定的かなと思いますが、別の動きとして従業員の個人事業主かがあります。雇用契約から業務委託契約への変更ですね。これが増えそうなのは「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となるからです。確保の手段の一つに「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」というのがあります(参考:高年齢者雇用安定法改正の概要)。一部の優秀な人を除けば定年を70歳まで延長して社会保険を負担してまで正社員として雇用し続けるというのは想像しにくいです。まずは70歳までの就業機会の確保のために業務委託契約の制度が整備され、その後対象年齢が徐々に下がっていくという形で仕事に応じた報酬(できる仕事が少ない人には相応の支払い)が実現されていくのではないかと思います。
会社がなくなるというパターン
70歳まで労働するとなると25歳から仕事を始めたとして45年あります。仮に仕事内容が自分に合っていたとしてずっとそこで働けそうと思っていても別の問題があります。会社の寿命です。
会社の寿命で検索したときに見つかるのが東京商工リサーチが発表した倒産企業の平均寿命の数字。
2020年の倒産企業の平均寿命は23.3年で、前年から0.4年短縮した。2年連続で前年を下回り、2006年以降の15年間では、2014年と2017年(23.5年)に次ぐ9番目の長さとなった。
23.3年という数字が出ていて45年より大分短いです。あくまでも倒産した企業の平均なので倒産していない企業が含まれていないことを考えれば企業の平均寿命は23.3年よりは長いといえますが安心できる数字ではないですね。この調査での倒産件数は7,773件。会社がなくなるという観点では倒産のほかに廃業もあり毎年たくさんの会社が消えています。
別の数字だと中小企業白書に企業生存率のデータが出ています。
2017年版は数字が5年までしかないですが5年の企業生存率が81.7%という数字は2011年版の82%とほぼ同じなので2011年と2017年で大きな違いがないだろうとみると、22年で生存率が50%ということになります。45年という数字と比較すると短いですね。
新卒で入社した企業の会社員一本では厳しい
いくつか数字を見てみましたが、終身雇用が崩れてきてフルタイムで働き続けるのは無理なケースが増えそうですし、そうでなくても定年までの期間が延びて定年までの間に会社がなくなるという可能性も増えているということで、転職や副業を避けて通るのが難しくなっていると感じます。
そもそも65歳とか70歳まで労働するという気にならないですよね。いざその年になってみたら働き続けるしかないということになっているかもしれないですが。